この事件の背景を理解するには、前立腺癌のことを知っていただく必要があります。もしあなたが40歳以上の男性であれば、そう遠くない未来に、このドキュメントを読み直す日が来るかもしれない。私だって自分が癌になるとは思ってもいませんでした。良い機会です、がん患者の私から前立腺の話をいたしましょう。
前立腺、前立腺肥大、前立腺癌
前立腺は、男性だけにある臓器で通常はクルミのような大きさと形です。膀胱のすぐ下に位置し尿道を取り囲むように存在します。前立腺内部は中心部にある内腺と、辺縁部の外腺に分けられ、精液の一部である前立腺液を作り出しています。
前立腺の代表的な病気としては、前立腺炎、前立腺肥大、前立腺癌がなどがあります。このうち前立腺肥大症は、内腺が腫大して尿道を圧迫・刺激することなどで「おしっこが出にくい」、「トイレの回数が多くなった」などの排尿に関する症状が現れますが、前立腺癌とは全く別のものです。 ・・しかしこれを読んで前立腺の役割がイメージできる方は、最初から知っている方くらいでしょうね。
イメージしやすいように、ミニトマトを前立腺に例えてみる
ミニトマトの中心にストローをプチっと刺して貫通させる、ストローは尿道です。次に、ミニトマトから少し出たストローの先をそのまま膀胱に見立てたオレンジに差し込むと、膀胱に前立腺が密着した状態になる。ストローのもう一方はパンツの中の大事なものにつながっている、と考えてほしい。
トマトの果汁は、ストローの貫通部分にあいた小さな穴からストロー内部に放出されます、これが前立腺液。実は精巣(睾丸)で作られる「精子」も精嚢からの「精囊液」と共に、前立腺内にある小さな穴から尿道に放出されるシステムになっている。この時、前立腺の膀胱に接する側は「内尿道括約筋」によって閉じられているため、放出された液体は尿道を通って体外に射出されます。これとは別に、膀胱内の尿は外尿道括約筋によって貯められているので、それをゆるめれば単に「おしっこ」として体外に排出されます。ここで、トマトの内部が膨れると、その中心にあるストローが圧迫され排尿障害が起きる。このように、前立腺によって射精と排尿という全く別の機能が制御されているのがわかります。
前立腺がん患者の90%以上は60代以上
40歳以下の方はとりあえず安心していただきたい、前立腺がん患者の90%以上は60代以上です。このため前立腺癌患者では60代であっても若い患者とされ、少ないながら50代、さらには40代半ばの患者さんもたまにいます。
前立腺がんの増殖速度は、一般的には緩やかで比較的おとなしいとされますが、一部には進行の早いものもあります。食生活や生活習慣によって癌の発症に影響があるようです。しかし癌ですから基本的には遺伝子の変異であり、遺伝的な要因も大きいと思われます。
前立腺癌の病状
前立腺がんの多くは尿道から離れた辺縁の外腺にできることが多いため、排尿に関する症状が出にくく、自分で気付くことはあまりありません。がんが大きくなり、尿道などに浸潤すると血尿や前立腺肥大症のような自覚症状が出ることがあるとされています。近年では血液検査でPSAを測ることで、前立腺癌のリスクがどれくらいあるか判定することができます。これにより無症状の段階で早期に発見することができるようになりました。
早期発見でも、完治が難しいとされることもある
しかし、PSAが基準値を超えたのですぐ精密検査を受けたが、悪性度が高い癌であると診断され、医師から「完治の可能性は五分五分」と告げられる患者もいる。流石に癌は手強いなという感想を持つのは他人、本人は、もうこれまでかと思うのです。自分だけが癌になった、50%の確率ならきっと悪い方になるというマイナス思考は止まらないのである。
ところが、完治の可能性が五分五分という医師がいる一方で、普通に治りますよと言ってくれる医師がいる。
高リスク前立腺癌患者の治療において、摘出手術を受けた場合の完治率はざっと50%、滋賀医大 岡本医師の小線源は95%以上です。医師によってここまで診断が違うということに驚かれたでしょうが、それより、信じられないと思うのが普通の方の感覚でしょう。しかし事実です、私達患者はそれを実感しています。
前立腺癌は、進行度により大きく2つに分類される。
- 転移のない「非転移性前立腺癌」:
転移のない段階で見つかった癌は根治治療を受ければ完治が期待できます。前立腺の外に少しはみ出した被膜外浸潤、精嚢に癌が進行した精嚢浸潤は、転移にはあたりませんから適切な治療により根治可能です。 - 転移が見られる「進行癌」:
進行癌の主な転移部位は骨ですが、現在の技術では骨に転移した進行癌の根治治療は望めません。しかし、いきなり骨に転移が起きるということは少なく、最初に転移が疑われるのは骨盤内の所属リンパ節です。これも転移ではあるのですが、放射線治療によって根治できたという報告もあり、リンパ節転移のみであれば医療機関によっては根治可能とされます。
おもに治療に対する指標として3つに分類される
- 低リスク:
治療の必要がない腫瘍とされ、経過観察ににすべきというのが、がん治療学会などでの共通認識。 - 中間リスク:
適切な治療法、医療機関の選択で、高い根治性が期待できる。 - 高リスク:
癌細胞の悪性度が高い、癌が進行している、などの理由で、再発リスクの高いグループとされる。
前立腺癌の治療法は、確立されていない
根治治療の方法には、現在様々な選択肢がありますが、大きくわけて手術療法と放射線療法があります。
- 手術療法
手術療法は、前立腺癌治療のメインストリームのようで、泌尿器科の医師からは、第一選択として提示されることが多く、およそ7割の患者が外科手術による全摘出を選んでいます。従来から行われているのは開腹手術ですが、現在では手術療法の多くがダヴィンチというロボット支援手術です。最先端テクノロジーが導入されたと聞けば多くの日本人はそれが最高の治療であるかのように感じられるでしょう。 - 放射線療法
外科手術の次に多いのが放射線治療で、残り3割の大部分になります。寝台に寝た状態で外から放射線を照射する放射線外照射治療、小さな放射性のカプセルを前立腺に留置する小線源療法、さらに、陽子線、重粒子線治療など、さまざまな治療が行われています。
しかしながら”前立腺癌の治療法は、いまだに確立されていない”とされています。同じ患者が、泌尿器科医からは手術が有利と言われ、放射線治療医に尋ねると、放射線治療が有利という説明がされることも珍しくありません。実際に「完治できるかどうか」で比べると、特に高リスク患者の長期のPSA非再発率を比べると、医療機関ごと、治療法ごとに大きな格差があります。しかし私達患者に対しては、どれも同程度の治療成績である、という曖昧な説明が一般的です。
続きを読む:
前立腺癌とは:前立腺癌、治療の実際 – 問題の背景を理解するために2