小線源治療に対して、非常に甘い認識を持つ泌尿器科教授

平成30年7月30日 国立大学法人滋賀医科大学長 塩田浩平 として公開された、「滋賀医科大学泌尿器科学講座医師に関する新聞報道について」について内容を精査しました。

「7月29日の朝日新聞に患者らによる本学附属病院の医師提訴にかかる報道がなされました。報道は、患者側の一方的かつ事実に反する意見をそのまま掲載したものであり、極めて遺憾であります。
平成30年7月30日 国立大学法人滋賀医科大学長 塩田浩平」
滋賀医科大学泌尿器科学講座医師に関する新聞報道について(アーカイブ)<<2019年6月16日現在、この文書が削除されているようですが、こちらのアーカイブを示します>>

遺憾であるのはこちらも同じですが、大学側の見解を聞いてみましょう

新聞記事にあるような泌尿器科教授と准教授が独断で未経験の治療を行うことを計画したことではない、とする泌尿器科学講座の見解

泌尿器科学講座はこう述べています

2.本報道について
上記のごとく、今回の新しい医師の養成は病院として計画してきたことであり、また、実際の小線源治療に関しましては、症例数800例以上の経験のある指導者(前立腺癌小線源治療学講座特任教授)による指導の下に、泌尿器科医25年の経験豊富で前立腺癌専門である泌尿器科准教授が行う予定であったものです。新聞記事にあるような泌尿器科教授と准教授が独断で未経験の治療を行うことを計画したことではありませんし、この治療は放射線科医師、看護師などの協力も必要ですので、独断で行うことは不可能です。

この事件は泌尿器科副科長である成田医師の独断ではなく、科長である河内医師の方針であったことは容易に推認することができます。河内医師の指示か、少なくとも承認がなければ、成田医師が泌尿器科で小線源治療を実施しようとすることはあり得ません。さらに泌尿器科窓口での誘導の指示、巻き込まれた患者の数を考えれば組織全体で計画したことと考えるのが妥当です。

しかし泌尿器科学講座の見解で間違っているのは、次の点です。

実際の小線源治療に関しては、指導者(前立腺癌小線源治療学講座特任教授)による指導の下に、泌尿器科准教授(成田医師)が行う予定であった

患者会の調べでは、成田医師に診察を受けた患者さんで指導者(特任教授)が同席した、あるいは診察を受けた、という報告はいままで1例もありません。もちろん、指導者の指導下で、「泌尿器科医25年の、経験豊富で前立腺癌専門であるが、小線源治療については治療経験ゼロである医師が行う予定」などという話は誰も聞かされていません。

朝日新聞の記載の中で、「小線源治療の習得には指導医の下での研修が必要とされる」について

泌尿器科学講座はまた、このように反論しています

朝日新聞の記載の中で、「小線源治療の習得には指導医の下での研修が必要とされる」と
ありますが、このような法的な規則やガイドライン等はなく、経験が少なくても経験の豊富な医師の指導の下であれば泌尿器科の専門医が十分行うことのできる治療です。
また、「准教授が特任教授から技術等を学ぼうとしなかった」とありますが、准教授は 2015 年 7月 4 日に前立腺癌密封小線源永久挿入治療研究会が開催する「第 17 回ヨウ素 125 シード線源永久挿入による前立腺癌密封小線源療法技術講習会」に参加し、受講証明書を授与されており、また、専門書等による自主学習をするとともに、実際に小線源治療を行っている
経験豊富な泌尿器科医と事前に交流を持ち、疑問があれば解決し、準備に努めてまいりました。過去には特任教授による 2005 年の小線源治療の立ち上げの際は初期の 5 例の症例の立ち合いを行い、実際の手技は十分理解済みであり、その上で、最近の特任教授の手技を学ぶために事前に特任教授の治療見学も済ませております。

終始言い訳に徹しているだけとしか思えませんが、要点を抜き出してみます。

泌尿器科学講座の、小線源治療に対する認識の甘さが目立つ

泌尿器科学講座はこう述べています

「小線源治療の習得には指導医の下での研修が必要とされる」と
ありますが、このような法的な規則やガイドライン等はなく

 経験が少なくても経験の豊富な医師の指導の下であれば泌尿器科の専門医が十分行うことのできる治療。

つまり、「指導医の下での研修を受けていない未経験の医者であっても、ガイドラインや法に反していない」と言っています。仮にそれは認めるとして、その理屈からは、病気が治らなかったとしても、さらには癌で再発や転移がおきたとしても、ガイドラインや法に反していなければ、何の問題もない、妥当な治療だと言わんばかりです。しかし、それはもはや治療と呼べるものではありません。こんなことを国立の大学病院が公言すること自体が驚きです。

滋賀医大は「医療ガイドラインにあるかどうか」を正当性の判断基準としているが、それは誤り

EBM(evidence-based medicine)に基づく医療ガイドラインは、各医師が、さまざまなエビデンスを収集蓄積し、それを評価して現場の特性にフィードバックさせるために随時決定されたものである。それに基づいて診療が行われてきたが、そもそも医療とは「個別性が強いもの」であり,いかなるガイドラインも個別の状況や価値判断を排除するものではない。
各医師が、主体的にそのガイドラインの採用の可否を判断するのであり、ガイドラインの目的は,あくまで「参考とすべき指針」なのである。
つまり、ガイドラインに従っているかどうかを、医療の正当性の判断基準にするのは誤りであるが、それを泌尿器科科長レベルの方が知らないはずがない、それを知った上で言い訳として使っているのですからタチが悪い。
「ガイドライン」については以下のサイトご参照ください

EBMと医師の裁量 日医ニュース 第971号(平成14年2月20日)
医師は自分勝手な診療をして良い,それが医師に許された「医師の裁量権」であるという意見も間違っている.医師は,自らが判断するエビデンスに基づいて,医師としての良心に従い,患者さんに対して最適の医療を提供する義務がある.それが医師の裁量なのである.
医師の裁量で,最適の医療が提供される権利は,患者さんの方にある.医師の裁量とは,医師の権利ではなくて医師の義務だと考えるべきである.
http://www.med.or.jp/nichinews/n140220d.html

泌尿器科准教授 成田医師の小線源治療に関係する経験:
受講:2015年7月4日に小線源「講習会」に参加し、受講証明書を授与された
学習:専門書等による自主学習をした。
交流:小線源治療を行っている経験豊富な泌尿器科医と事前に交流を持ち、疑問があれば解決し、準備に努めた。
立会:過去には、特任教授による 2005 年の小線源治療の立ち上げの際は初期の 5 例の症例の立ち合いを行い、実際の手技は十分理解済み
見学:最近の特任教授の手技を学ぶために事前に特任教授の治療見学も済ませた

見学したことはあるが、治療経験が全く無い は事実

成田医師の経験としては、講習会の受講、自主学習、交流、立会、見学 などを掲げているのみです。しかも、見学とか立会のみで「実際の手技は十分理解済み」としています。これは言い訳だとは思いますが、もしそうでないなら、泌尿器科学講座は小線源治療を非常に簡単なことと認識していることになる。

実際の治療経験については全く触れていないことから、「治療経験が全く無い」は事実。その上で、泌尿器科教授は「経験の豊富な医師の指導の下であれば、経験が少なくても十分行うことのできる治療」※(1)としている。

非常に問題であるのは、この認識の甘さ ※(1)

言い訳だけとは思えないのは、泌尿器科は実際にこれを行動に移し治療直前まで行った患者がいるということです。そのまま治療を行ったとして、安全性を考え低い処方線量で、シードの難しい配置を避けて実施すれば、あるいは手術自体は、たとえ不完全であっても終了し、当面患者はそれに気づかないかもしれない。しかしこれでは実験動物と同等の扱いであり、後で大きな問題を引き起こすことは次のことから明白です。

  • 低い放射線量の投与では、前立腺内の癌のすべてを死滅させることができないため、残存した癌細胞が増殖し、いずれ「再発」を引き起こす可能性が高いこと。
  •  経験不足(実際には未経験)では前立腺全体に対する均質な照射は望めないため、部分的に非常に高い線量が照射されるケースも予想され、この場合は放射線障害による重度の出血や穿孔が起きる可能性がありました。

「再発」と言われれば患者は癌である以上しかたのないこと、として納得するかもしれません。また、再発までには、ある程度の年月がかるため、多くの再発患者が出て始めて「技量のない医師の治療」が原因という事実が発覚します。再発する患者が急増し、その救済治療に失敗すれば多くの患者が命を失うことになる。まさに、群大を超えるような大事件となる可能性がありました。

単に小線源治療をすることと、根治性の高い小線源手術をすることでは、まったく次元が違う

成田医師は、泌尿器科医25年の経験豊富な前立腺癌専門医という自信から、未経験であっても、小線源手術などたやすいことであり、見学だけ(※2)でも、いきなり実施しても大丈夫だと本当に考えていたのかもしれない。あるいは不安は持っていたが、泌尿器科教授の指示には従うしかなく、治療計画を進めるしかなかったのかもしれない。

※2
この件について、弁護士が行った岡本医師への聞き取りによれば、「成田医師は2015年12月にたった一回見学にきただけであること、しかも当日3例の手術のうち見学したのは1例だけである」と答えています。また、成田医師は見学しただけで「できるから全部やらせろ」という発言をした、その認識の甘さに危機感を感じて、治療を止めざるをえなかった、と証言しています。

いずれにしても、ただ見学しただけ、という全く小線源治療の経験のない医師が、実際の手術を行うなどということは「異常な事態である」と言えます。またそれを正当化しようとする病院には、患者のために、という視点がまったく感じられません。
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※2 事実、他院の小線源治療を長く経験されている泌尿器科医師に、伺ったところ、未経験の医師がいきなり治療をするのは、まず無理であるという返答をいただいています。
根治性の高い小線源治療は、小線源治療の専門医について、およそ数十例~百例以上の症例を重ねないと無理だと思われます。少なくとも、経験のない医師が初回治療で根治性の高い小線源治療治療を行うのは絶対に無理です。

患者の命を守るためには、阻止すべきことである

岡本医師は、患者の命を守るため無謀な治療を阻止しました。本来は病院がこのような事態が起きないよう監視すべきことであるのに、それを怠ったどころか組織全体でそれを進めました。しかし病院はこう説明しています。

また「2015 年 11 月に学長に治療の中止を求め」とありますが、准教授が予定をしていた最初の小線源治療の約 2 週間前の 2015 年 12 月に、特任教授が学長に指導すべき准教授の治療に協力できない旨をメールで表明しました。その後病院長及び泌尿器科教授が協議の上、特任教授の十分な協力が得られない状況であり、患者さんにご迷惑をかけない事が最も重要と判断し、小線源治療は全て特任教授が実施することを選択し、学長に報告、了承を得たのが実状です。

あたかも、岡本医師が協力できないとしたことが問題であるかのように説明していますが、これは組織の方針に同意できない物を非協力者として扱い、これにより自らの行動を正当化する常套手段です。
指導すべき立場の医師が患者の診察や面談ができない状況(つまり、患者の状態全く把握できない状態)において、手術の立会を強要されたため、その手術自体を制止したということです。
未経験の医師にまともな手術ができないことはあきらかであり、それを制止するのは医師として当然の行為です。もし、患者の命を軽視する手術と知りながら、それを制止しなかったとしたら、そのことのほうが大問題です。

しかしながら、これらは病院内の出来事であり、それを違うと証明するのは患者の我々には困難です。そこで、いくつかの証言を再度掲載します。

  • 成田医師に診察を受けた患者さんで指導者(特任教授)が同席した、あるいは診察を受けた、という報告はいままで1例もない
  • 指導者(特任教授)の指導下で、「小線源治療経験ゼロの泌尿器科准教授が行う予定」という話は誰も聞かされていない。
  • 他院で小線源治療に積極的に取り組んでいる医師は、治療実績の豊富な病院の見学や、講習会への参加を複数回行い、技量の向上に努めています。
  • 成田医師の行動は、講習会の受講、自習、交流、立会、1例の見学 のみです。他院の小線源治療の見学もゼロ、しかも「交流、立会」などという技量には無関係なものまで列挙せざるをえなかった、そこには小線源治療へ主体性が全く感じられません

 この状況では、指導者(特任教授)と成田医師に情報共有など存在していないと考えるのが妥当です。

  • 滋賀医大には、岡本医師の治療を学ぶために他院の小線源治療医が、見学、研修目的たびたび訪れているという事実があります。
  • 岡本医師は院内でもちゃんと医師を育成しており、放射線科医師を指導 (仮名A医師)育成し、2年間かけて今ではベテランのK医師同様に小線源治療ができるまでに指導と教育をしてきたのです。つまり、岡本医師が滋賀医大内で後進の育成をおこなっていないというのは全くの嘘であり、河内教授や松末院長が泌尿器科の不正を隠ぺいするために事件の責任を岡本医師になすりつけるための方便だというのは明白です。
  • 岡本医師も他院に出向いて小線源治療の指導にあたっています。その中には治療経験の長い医療機関も含まれており、容易に技量が向上しないことがうかがえます。

小線源治療においての技術指導は、このように積極的に行われています。しかし、結果的に泌尿器科准教授に対する指導が行われなかったのは、小線源治療を習得しようとする意欲の欠如ゆえのことでしょう、泌尿器科准教授の「小線源に関する精一杯の誇れる体験が、見学とか立会のみ」ということでも、それは明らかです。

患者に公正な説明もせず、同意も得ずにこのような企てを強行しようとした病院にの行為は許されるものではありません。
小線源治療未経験の医師の治療に立会を強要されたとすれば、患者の命を守るためそれを阻止すべきであり、患者の命を優先する医師の立場からすれば、当然の行為でしょう。
病院は「患者さんにご迷惑をかけない事」と言っていますが、患者に説明することなく未経験の医師の治療を推し進め、患者の命を脅かすことなど、言うこととやっていることが全く違います。

滋賀医大問題の本質

泌尿器科学講座は、冒頭でこう述べています。

今回の新しい医師の養成は病院として計画してきたことであり、また、実際の小線源治療に関しましては、症例数800例以上の経験のある指導者(前立腺癌小線源治療学講座特任教授)による指導の下に、泌尿器科医25年の経験豊富で前立腺癌専門である泌尿器科准教授が行う予定であったものです。

「新しい医師の養成は病院として計画してきたこと」としていますが、病院の言う養成対象である泌尿器科准教授の行動は、先に述べたように、講習会参加、他院の医師との交流、見学、程度ですから、そこに計画性は全く感じられません。

たった1度の見学(後述)だけで、いきなり本番という治療計画を、患者が知ったら、納得も、同意もするはずがありません、だから、患者に説明することなく治療計画を進めたということは誰でも容易に推認できます。

しかし、なぜ このような・・どう考えても患者が納得も、同意もするはずもない、見学一回で、いきなり本番などという治療計画を 泌尿器科科長である河内教授がこれほど強引に推し進めようとしたのか、この滋賀医大問題の本質はこの点にこそあるのであり。さらに このことをなかったこととして隠蔽しようとしている滋賀医大組織の深刻な体質にあるとわれわれ患者会は考えているのです。
私達患者は滋賀医大がこれまで提供してくれた治療に満足し誰もが感謝しています。しかしながら今回の件であきらかに滋賀医大は変質した、と考えざるをえません。

2018年7月29日の朝日新聞報道