裁判所、実質、説明義務違反認める

裁判所は、実質、被告の説明義務違反を認めている

判決内容

2020年4月14日、大津地裁は説明義務違反賠償請求訴訟について判決を下した。賠償という訴訟手続き上の請求は認められなかったが、実質として、原告2名への説明義務違反があった、また他の2名への説明義務違反の疑いは残る、と裁判所は断じた。勿論、その前提として、岡本医師の小線源治療と、被告成田のそれは質的に異なるものであり、患者の選択可能な治療と認定している。それでも賠償命令までには至らなかった理由としては、結果的に4名全てが岡本医師の治療を受けることができ、その恩恵に浴せたわけであるから、不利益の程度が賠償までには及ばない、というものである。

つまり、被告が賠償命令から逃れることができたのは、岡本医師の身を挺した患者救済行動の帰結である。自らが病院から不当に放逐しようとした岡本医師の「患者を最優先する姿勢」(判決文の表現)の結果として、皮肉にもなんとか体裁を保った被告、また大学、病院当局の姿は、滑稽を通り越して、哀れでもある。
全体として社会常識的には、被告の倫理感の欠落が指弾されたといえる。一般社会から高い倫理感があって当然とみなされる医療従事者、医師が受けた指弾としては前代未聞としか言いようのない事実認定といえよう。

注目点

また、判決理由内には随所に、裁判所の注目すべき判定が見られる。
第一に、被告が、抗弁のために、虚構のストーリーを組み立てたことが非難された。
まず、被告が主張した“チーム医療”は実体がないと断じた。つまり、被告成田医師は岡本医師が想定していた小線源治療の指導の水準には到底達していない。また、寄附講座の目的である小線源治療を実施できる医師の育成のための指導においては、指導する側が想定する水準が基本となる。結局被告成田による小線源治療への岡本医師の関わりをもって、寄附講座における教育・指導の一環として位置付けることは困難である。つまり、岡本医師が指導を怠ったという状況ではなかった。そうすると、被告成田による小線源治療は、寄附講座の教育目的実現のものということはできず、したがって岡本医師が指導的立場にあって総責任者としてこれを指導し、医療チームとして質の高い治療を実現するという関係にはなかった、と断じた。

つぎに、河野証人の、小線源治療においては泌尿器科医の特に高度な手技は不要であるとの主張を、手技の詳細を吟味した上で退けた。

さらに、被告側の岡本医師の治療において有害事象が報告されているという主張も、その根拠となる事例調査検討委員会報告書が、なんらの具体的な検証内容も示しておらず、評価に値しないと切り捨てる。

これを前提に、一度岡本医師の手技を見学しただけの被告成田が、岡本医師の立会を得て、その助言を得ながら実施するには、いまだ習熟度が十分でないとの岡本医師の判断は、被告成田の小線源治療への取り組みの姿勢が積極的でなかったことも併せ考慮すると、指導を求められる側の立場として適切なものであった、と述べる。

さらに、被告成田の供述態度について、岡本医師の小線源治療は習得すべき治療に値しないものであったために参考にせず、これとは異なる独自の小線源治療を目指していたというものであれば、寄附講座の開設趣旨とも、自身が岡本医師の下で小線源治療に従事することになった経緯とも、チーム医療であったとする自らの主張とすら、全く相容れないものであり、それは訴訟戦略上の虚構のストーリーが影響しているものというほかなく、そのような供述態度は、真摯に真実を述べる姿勢に欠けるものとして、その信憑性全体を滅殺するものというほかない、と厳しく糾弾した。

そもそも被告側の、泌尿器科医の特に高度な手技は不要であるという主張と、小線源治療を実施できる優秀な医師を育成する目的で設置された寄付講座へ、泌尿器科教授の立場の被告河内が併任教授での参画を執拗に求めた事実は、まさに相反するもので、支離滅裂である。

第二に、原告側が提出した証拠、証言を採用し、被告の疑惑行為を記載している。つまり、大学当局に提出された、被告成田を併任准教授に推薦する旨の、被告河内および岡本医師署名の有印文書が、岡本医師による押印ではなく、岡本医師の意思で作成されたものでないと認めている。この偽造に関しては、別途刑事事件として書類送検されている。

さらに、被告はチーム医療の主張が破れた場合に備えて、患者へはやがて説明する予定であった、とする主張も提出している。その裏付けとして「説明した」と記述のある被告成田小線源1例目予定患者のカルテを証拠提出した。しかし裁判所は、「該当患者が、説明を受けていないと語った」という岡本医師の証言を事実として採用し、そのカルテ上の記載は、あくまで岡本医師から受けた指弾への対抗策として、事後的に事実に反して記入さ
れたもの、つまりカルテ不実記載、偽造と断定し、主張自体を否定した。

この経緯は、被告の語るに落ちた姿を如実に表している。つまり、被告成田がカルテ不実記載した事実、あるいは、いずれ説明する予定であったという陳述(これは被告の目論見に反し否定されたが)も含めて、それらは、被告が説明責任を十分に認識していた背景が無ければ成り立たない。それでも(裁判所が認定したとおり)説明しなかったのは、なんらかの思惑により責任を放棄した、と被告自ら述べているに等しい。その思惑とは、推して知るべし。

第三に、被告河内の権限を制限している。
寄付講座での被告河内の権限は、泌尿器科(学講座)における教員、医師らに対する管理監督と同様のものではなく、前者が放射線治療で、後者が手術治療で前立腺がん治療の拠点となるという目的に資するよう、必要な協力を提供するなどする範囲と制限している。

この指摘からは、被告河内の一連の小線源治療への介入は、越権著しいものと言わざるを得ない。
以上のように、形の上では敗訴という残念な結果となったが、実質として被告たちの実に不誠実な本質の一端を白日に晒すこととなった。