院長への公開質問状ーその回答

滋賀医科大学医学部附属病院長
松末 吉隆 様
                滋賀医科大学 前立腺癌小線源治療患者会
                       代表幹事  安江 博

公開質問状

本会は貴殿及び学長に対して、これまで患者説明会の実施要求(2018年6月18日)を行いましたが、回答がありませんでした。その後、改めて学長宛に患者説明会の要望書を送付しました(同年7月18日)。しかし、貴殿或いは学長から回答をいただいたことはありません。
われわれは、滋賀医科大学医学部附属病院の患者、並びにその家族ですから、貴殿からは説明をうける「権利」を有することは明らかです。
さて、先般、説明・同意なしで行われた不適切なQOL調査に関して、学長に対処を求める要求をしています。このことについては、既に、文科省・厚労省にも通知し、調査依頼しているところです。最近、さらに、カルテ(診療録)不正閲覧に関する公益通報の通知を患者会として、受け取りました。このことについても、厚労省に通知し、調査依頼しています。
こうした一連のことに対して、当事者である滋賀医科大学附属病院は、全く対応していません。そこで、今回、貴殿、病院長に対して質問状を送りますが、公開質問状の形態で送らせて頂きます。
以下、質問を列挙いたします。精査いただいたうえで、2月14日正午までに書面でご回答いただけるように要請いたします。なお、本「公開質問状」は、厚労省、文科省、滋賀県、マスコミ各社などにも送付し、われわれが質問することの理由と意義を明らかにするものであることを付言いたします。

質問1

貴殿並びに、滋賀医大付属病院は、世界的にも稀有な治療実績を保持し、いまでも高リスク前立腺癌に罹患した多くの患者が命をつなぐために治療を求める岡本圭生医師の治療をなぜ、打ち切ろうとしているのですか。その理由をご教示ください。

※この枠内は病院からの回答です

(回答)2015年1月から「前立腺癌密封小線源外来」を運営している本学寄附講座「前立腺癌小線源治療学講座」の設置期間は2019年12月末日までとなっております。これは、本学では、企業等からの寄附金により運営される寄附講座の設置期間を、透明性確保の観点から、規程により最長5年と定めているからです。そして、当該寄附講座特任教員の雇用期間は、当該寄附講座の設置期間となることを承知した上で、泌尿器科講師であった岡本圭生氏を当該寄附講座の特任教授とする申請が寄附者からあったものです。つまり、寄附講座の申請時には雇用期間も決まっておりましたので、打ち切るのではなく、任期満了です。

なお、本院では、本年4月から常設の小線源治療外来を泌尿器科に開設し、7月から泌尿器科において小線源治療(手術)を開始することにより小線源治療を継続すること及びこれまでに本院で小線源治療を受けられた患者さんは、今後も本院泌尿器科において責任を持って経過観察又は患者さんのご希望に沿って他院へ紹介等の対応をさせていただくことをお知らせしております。

また、本院泌尿器科では、本院泌尿器科医師を、豊富な小線源治療実施大学病院等に派遣して指導を受けさせている外、本院泌尿器科において小線源治療を実施する際には著名な小線源治療医を招聘すると共に、泌尿器科医師と共に小線源治療の重要な役割を担う放射線科医には経験症例数が数百例以上の経験豊富な医師が治療に加わる予定であることを申し添えます。


病院は、治療打ち切りの理由は単に「任期満了である」とし、その治療を代替すべく、小線源治療未経験の医師を他院に派遣、さらには他院から著名な小線源治療医を招聘する、などとしている。
 
病院として現在の岡本医師による高信頼度の治療をここまで築いておきながら、任期を延長するという手段ではなく、新たな治療を開始するとしているが、これは今までの治療の成果を白紙に戻すことであり、それが、いったい誰の利益となるのか大きな疑問である、少なくとも患者ではない。
 
患者が必要としているのはただ1つ、「根治性の高い治療」であり、それを失ってまで組織を改変するというのは合理性に欠ける。公益性の高い医療機関がすべきことではない。
 ※ この青文字は患者会のコメントです

質問2

われわれ患者が入退院時に記入を求められた、泌尿器科河内教授により行なわれた「FACT-P」なるQOL調査には、本来「氏名」記入欄があってはならないことが、われわれがFACT機構に直接確認したことにより判明しました。貴院はなぜ「氏名」記入欄を設けたのですか。その理由を明確・簡潔にお答えください。

(回答)本院では、このFACT-P質問票を前立腺がん患者さん個々の治療の参考とするために使用しており、本院泌尿器科は同機構から使用許諾を得、そのライセンスに記載してあります使用の条件を遵守して使用しております。本院泌尿器科ではFACT-P質問票を使用し、個々の患者さんの QOL を評価することにより、その治療の有効性、妥当性等を評価し、主治医個人や当科における治療成績の改善や患者選択の検討を行うため、当該患者さんの電子カルテに回答済のFACT-P質問票を保存しておりますので、患者さんを間違えることのないよう、患者IDと氏名及び入院時か退院時かを明記する欄を設けているものです。

この調査票は「前立腺がん患者のQOLに関する質の高いエビデンスを得るための調査」であり統計処理をするためのデータ収集です。個々の患者さんの QOL を評価するためではない。
「氏名」記入欄はあってはならない、
それに対し「患者さんを間違えることのないよう」氏名を記入させた、などどいうのは稚拙な言い訳であり、ライセンス違反を正当化することはできない。

質問3

FACT-P調査では、患者ではない第三者が少なくとも23名の患者の質問票に、患者氏名を記入しています(カルテ開示により確認しています)。この指示を与えたのは誰ですか。

(回答)誰が指示したものでもございません。本院では、FACT-P質問票を前立腺がん患者さん個々の治療の参考とするために使用し、診療録として保存しております。このため、回収時に氏名や患者ID等が空欄になっていた場合は、患者さんと時期を特定し、他の患者さんと間違わないように、また時期を間違わず電子カルテに保存するため、事務職員や看護師が氏名等を記載しております。

FACT-Pは、そもそも「前立腺がん患者さん個々の治療の参考とするために使用」するものではない。単なる問診票と混同されているのかもしれないが、医療機関として、本当にこのような認識でFACT-P調査票を用いたのであれば管理者の責任が問わざるをえない。
「回収時に氏名や患者ID等が空欄になっていた場合は・・」としているが、そもそも「氏名を記入すべきではない」が、そのチェックすら後回しになっているくらいであるから、義務付けられている「患者への説明と同意」などまったく行われていないと考えるのが自然であり、その実施方法に大きな問題を感じる。

質問4

同調査では、第三者による氏名記入だけでなく、質問項目への回答が、明らかに患者の意思とは異なる回答結果となっている(偽造されている)ケースが複数あります。質問3とあわせて、われわれにとっては到底容認できない「書類の偽造」です。この不適切行為に対して貴殿はどのような対応をとられましたか(「この事実を貴殿が承知されていない」、ことはないと存じますが、念のため本事件を報じた朝日新聞記事を添付いたします「資料1」)。

(回答)FACT-P質問票を配付している職員に確認いたしましたところ、患者さんによっては配付した職員に内容を含めて記載してほしいという方がおられたり、患者さんに聴きながら記載したことがあることを確認しましたが、患者さんの意思と異なる記載をした事実を確認することはできませんでした。

職員が内容記入したことを認めていますね、また、患者さん個人への対応の記憶もあるようですが、義務付けられている「患者への説明と同意」はどのように行われたかも、きちんとお話いただきたい。こちらでは患者さんから「説明を受けたり、同意をした」という報告は受けていない。
職員が内容記入したのでは、
患者さんの意思と同じ記載をしたという事実も確認することはできません。

質問5

岡本医師により小線源治療を受けたわれわれ患者約1000名のカルテが、泌尿器科医師ら、事務職員そして貴殿により「不正閲覧」されていたとの驚くべき事実を岡本医師より通知されました。これはカルテの不正閲覧行為の被害者であるわれわれ患者は、公益通報者保護法第2条1項柱書の「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」に該当すると判断されたとの理由によるものです。
このことは朝日新聞(資料2)にも報道されたとおりです。
岡本医師は「カルテ不正閲覧」発見後、滋賀医大の「公益通報」窓口に通報を行い、それに対する回答が、1月25日付け貴院公益通報委員会委員長小笠原一誠氏から岡本医師への「公益通報調査結果について」で回答されたことが、報告されました。
以下に同文書について質問いたします。

質問5-1

「平成30年11月2日以降の泌尿器科医師らによるカルテ閲覧については、平成30年9月14日に開かれた本学医学部附属病院安全監査委員会からの要請に基づき、業務上行ったものであり」との説明があります。同委員会からどのような要請があったのか当日の議事録を提示したうえでご説明ください。
また、平成30年9月14日以前に行われた、事務職員及び貴殿による「不正閲覧」はどのような理由と根拠によるのかご説明ください。

質問5-2

「本院の前立腺癌小線源治療に係る報道を受け、・・・説明同意書や診療録等について調査を行うこととなった」との説明があります。
「本院の前立腺癌小線源治療に係る報道」とは「資料3」朝日新聞の報道であろうと推察いたします。当該記事では「泌尿器科医師による説明義務違反」が記載されています。一方、記事において、これまで岡本医師により行われた前立腺癌小線源治療自体に問題があった、とは一言も言及されていません。しかるに「未経験を隠して強引に小線源治療を計画し、その説明義務違反を問題とされた」泌尿器科医師たちが岡本医師の患者であるわれわれのカルテを精査することは、著しく客観性、中立性、当事者性を欠くのではないでしょうか

。「報道」がきっかけになるのであれば、「当該泌尿器科医師」らの行為こそが検証されるべきであると思料いたしますが、この不可解な決定と閲覧行為について、われわれ患者が理解できる説明をお願いいたします。

(回答)質問5-1と質問5-2について、合わせて回答させていただきます。
平成30年9月14日開催の本学医学部附属病院医療安全監査委員会において、前立腺癌小線源治療学講座についての報道を受け、診療内容を複数の医師の目で検討しておくことは医療安全上の極めて重要な提起であると考えられるため、本院で説明同意書や診療録等について調査を要するものであり、その結果をこの委員会に報告するものとされたものです。このことが10月2日(火)開催の医療安全管理委員会で報告され、医療安全管理上の観点から説明同意書や診療録等について調査を行うこととなり、医療安全管理部の他、泌尿器科及び消化器外科と連携し電子カルテからチェックを行うこととなりました。
なお、電子カルテを閲覧する権限を付与されている病院長及び事務職員が電子カルテを閲覧することは、医療安全や診療報酬請求等において必要となる確認や管理上必要な業務のためであり、「不正閲覧」ではございません。
また、本院の全職員は、採用時に守秘義務遵守を誓約しておりますことを申し添えます。
※上記の回答は議事概要から引用して作成したものですが、議事概要等を請求される場合は「法人文書開示請求書」に必要事項を記載していただき、情報公開窓口に提出するか又は郵送してください。

前立腺癌小線源治療学講座についての報道を受け、とあるが、そのような報道の事実はない。正しくは「泌尿器科医師による説明義務違反」の報道であり、事実を誤認しているかミスリードを誘うための文に思える。
岡本医師の患者約1000名のカルテを精査することに、どんな意味があるのか、この回答が全体で何を言っているのか、よくわからない。
「診療内容を複数の医師の目で検討しておくことは医療安全上の極めて重要な提起であると考えられる」と言うのであれば、それは泌尿器科の成田医師の医療行為であって、岡本医師の医療行為ではない。

質問5-3

岡本医師からの通知によると不正閲覧は11月2日から28日まで行われ、岡本医師が公益通報を行った11月29日から止まったとのことです。この奇妙な一致は、通報案件が泌尿器科に漏洩されたことを強く疑わせるものです。この事実関係について、理解できる説明をお願いいたします。

(回答)閲覧に関しては医療安全管理委員会の指示により、その業務が終了するまで行われており、特に期限を決めて行っているものではございません。今回の「11月2日から行われ、11月29日に止まった」という事実につきましては、承知いたしておりません。

学内のサーバのログを確認していただければ容易に確かめられる事実ですが、それを行うつもりはない、すなわち事実を確認したと公表するわけにはいかないということですね。

質問5-4

本年1月31日付けで貴院ホームページに「不正閲覧に係る報道について」と題するお知らせが掲載されました。この中で「本学医学部附属病院において、電子カルテの不正閲覧に関する報道がありました。当院では、電子カルテの不閲覧に関する事実はございません。」と記載されていますが、何の根拠も示されていないため到底理解できません。根拠を明示したうえで理解できる説明をお願いいたします。

(回答)前述の質問5-1及び質問5-2への回答のとおり、業務上必要な閲覧であり、不正閲覧ではなかったことが判明したものです。

業務上必要な閲覧である、としていますが
その理由が、「前立腺癌小線源治療学講座についての報道を受け、診療内容を複数の医師の目で検討しておくことは医療安全上の極めて重要な提起である」という回答に基づくものであれば、「前立腺癌小線源治療学講座についての報道」など存在しませんから、事実誤認に基づくものです。
事実を湾曲して伝え職員に閲覧させたということであれば、組織的な不正閲覧であると言えます。

質問6

上記の質問1~5までは書面のみのやり取りでは、詳細を知り得ることが極めて困難であることから、われわれは「FACT-P問題」と「カルテ不正閲覧問題」に関する説明会を2019年2月末日までに開催いただくことを求めますが、ご同意いただけますでしょうか。
多くの優秀な医師をはじめとする関係者が、日夜患者のために心血を注ぐ業務に専念されている貴院の信頼と、社会的責任において上記質問にお答えいただきますよう切にお願いいたします。

(回答)質問への回答は前述のとおりであり、説明会の開催は考えておりません。

予想はしておりましたが、終始言い訳としか思えない回答に失望しております。国立大学という公益性の高い医療機関において、重いがん患者のたった1つの望みである「根治」という望みを叶える手腕の先生が在籍しながら、どのような理由であれ、その治療をさせない、という方針を貫く病院など次第に社会での存在意義が薄れてゆくことでしょう。
 
これは単なる患者と病院の問題ではなく、患者のために、といいつつも、組織を守るためにひたすら奔走する滋賀医大病院の本音が見えることに皆様ご注目いただきたい。